自動車素材-材料の進化と課題

25.02.15
自動車の歴史は100年くらいですが、その変化は目覚ましく、10年前の車と 現状のものとでは、作り方、材質、制御の方法、などに多くの進歩があります。

はじめに

初期の頃の車は、シャーシに、前輪と舵取り装置、エンジンと駆動輪、を搭載し、 その上に仮装を載せると言う発想で作られていた。そのため、荷物を運搬するトラックと人間を移動させる乗用車の足回りは、ほぼ同一であった。それゆえ、人間も貨物並みの扱いで乗り心地が悪かった。
上図の様な構造のものが多く使われていた。4輪の支えは、板ばねで、ショックアブソーバーなどは、まだ使われてなく、道路のでこぼこの吸収などは考えられていなかった。
その後、改良が加えられ、われわれが通常使う右端の乗用車はシャーシのないものコックといわれる上下一体の構造へと進化していった。

自動車を構成する材料: 鉄、アルミ、樹脂

(社)日本自動車工業会が調査した材料の構成比の推移(表)を見ると、 鉄系の材料の使用率は、80%から70%へと減少している。 一方アルミと樹脂の利用は増大している。 アルミを含めた非鉄金属は約8%、樹脂も8%程度で、軽量の材料を使うことで燃料消費を抑える事に寄与しこれからも増えると期待できる。 その他には、タイヤのゴム、フロントガラス、各種センサーに使われているセラミックス、触媒の白金が含まれる。

表●平均的乗用車の主要材料の構成比変化
種類 1973年 1980年 1986年 1992年 2001年
銑鉄 3.2 2.8 1.7 2.1 1.5
普通鋼 60.4 60.5 57.7 54.9 54.8
特殊鋼 17.5 14.7 15.0 15.3 16.7
非鉄金属
(アルミ)
5.0 5.6 6.1 8.0 7.8
2.8 3.3 3.9 6.0 6.2
合成樹脂 2.9 4.7 7.3 7.3 8.2
その他 11.0 11.7 12.2 12.4 11.0

1Mpa=10.2kgf/平方cm 自動車の軽量化と材質の変遷

高張力鋼板(High Tensile Strength Steel)は、ハイテンと称されている。 通常の鋼板(引張り強度は300MPa程度)より板厚を薄くすることができるため軽くなる。90年代には440MPa、2000年には590MPa級が一般的となり、超高張力鋼板とも言われる980MPa、さらに1180MPa、1470MPa級も登場してきた。高張力鋼板は、90年代ボディ重量の25~35%を占めているが、最近では45%の採用例(トヨタ・プリウス、03年)も認められる。
弾性率は通常の鋼板も高張力鋼板も同じであるので、高張力鋼板の採用が有効な 個所は、疲労強度や変形強度が要求されるフレーム、ピラー、メンバー類、フロントフード、トランクリッドなどの外板パネルなどである。 高張力鋼板によりどれくらいの軽量化が図れるかをULSAB(Ultra Light Steel Auto Body, 98年)について見ると、3リッターV6エンジン搭載の4ドアセダン (目標車両重量1,350kg)の車体重量が203kgで、同タイプ市販車の平均車体重量 271kgに比べ68kg(25%)の軽量化を達成している。

自動車メーカーの材質研究の現状

マツダなど、1800メガパスカル級高張力鋼板の自動車部材を開発
マツダは、住友金属工業およびアイシン高丘と共同で1800メガパスカル級 高張力鋼板(ハイテン)を用いた自動車用部材を開発した。開発したのはフロン トおよびリアバンパーの内側に設置するバンパービームで、従来に比べて強度を 約20%向上することで4・8キログラムの軽量化を実現している。自動車部材 として実用化されているハイテン材は1500メガパスカル級がこれまでの最高 だった。同社では、2012年初頭から発売する新型クロスオーバーSUV「マ ツダ CX5」に採用する。
鋼材に代わる構造用軽量素材として注目を集める炭素繊維強化樹脂(CFRP)
車体軽量化のキーマテリアルとして応用研究が活発化しており、 今年5月の「人とくるまの技術展」では、ニッパツがサイドフレームとフロアパ ネルにCFRPを適用した自動車シートを展示するなど製品開発が加速してい る。しかし、普及拡大に向けては製品コストの低減が課題。同シートも従来比 50%の軽量化(適用部品)と45%の剛性向上を実現するも、商品化にはコス ト低減が不可欠。利用技術・応用製品の開発が進むなか、コストを含むスペック の最適化が急がれる。
スズキ、自動車部品用PPの耐傷つき性4倍向上、内装向け適用拡大
スズキは、ポリプロピレン(PP)の大幅な耐傷つき性向上を実現した。スチ レン量の異なる2種類の水添スチレン系エラストマーの配合により、既存PPの 4倍、独自開発した「スズキ スーパー ポリプロピレン(SSPP)」に対し て2倍の耐傷つき性を達成した。透明度が高く、着色化も可能。今回の特性向上 によりシボ形状の自由度を高めたことから、内装部品などで適用部位の拡大が見 込める。アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂製塗装部品の置き 換えを視野に入れて研究開発を推進する。 軽量化および透明性付与による無塗装化を実現しているのが特徴。 50ccのバイクの前面を着色した樹脂で作成、塗装の省略化。
スズキ、新型ワゴンRで軽ワゴン最高の低燃費実現、重量も70キロ減
スズキがクラストップの低燃費を実現した新型「ワゴンR」を発売した。新モ デルは、車両全体にわたる重量低減の徹底により最大70キログラムの軽量化を 図るとともに、エネチャージやエコクールといった先進低燃費化技術の採用によ り軽ワゴン最高となる28・8キロメートル/リットルを達成している。新型ア ルト(30・2キロメートル/リットル)に続く低燃費車の市場投入であり、 「8-9割がガソリン車の現状では当面の問題として必要」(鈴木修会長兼社 長)との認識から、ガソリン車の燃費競争をリードする。
BMW、量産車でCFRP採用拡大、カーボンならではの車体開発
BMWは量産車における炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の採用を加速 する。その役割を担うのが2013年後半に発売予定の電気自動車(EV)メガ シティビークル。同車では専用設計によるフルカーボン製のモノコックを採用す る予定であり、CFRPの採用により軽量・高剛性かつ優れた衝撃吸収性を実現 した車体開発を推進する。材料置換によるコストアップも「鋼材に比べて 120-130キログラム軽くでき、バッテリーを20%小さくできる」ため、バッテリーコストの低減で吸収可能とみる。
三菱自動車、綿+PETの内装表皮開発、CO2排出を2割削減
三菱自動車は9日、ポリエチレンテレフタレート(PET)素材に綿を組み合 わせた内装表皮を開発したと発表した。自動車シート用生地として今年夏、製品 化を予定している。植物由来材料として一般的な綿繊維を織り込むことで、 PET100%の従来素材と比較し、ライフサイクル全体でのCO2排出量を約 2割削減できる。天井・トリム表皮などへの応用も進める考え。
カーボンニュートラルを目指して・トヨタのバイオプラ開発
ハイブリッド技術で業界をリードするトヨタ自動車。植物資源を原料とするバイ オプラスチックでも世界最先端の取り組みを行っており、昨年12月にはバイオ プラスチックの採用面積が内装部品表面積の60%を占める「SAI」を量産化 した。二酸化炭素(CO2)排出削減など社会的な環境要請が厳しくなるなか、 すでに研究開発は「従来のコストと機能の2軸から、環境を加えた3軸へ」(三 宅裕一車両材料技術部有機材料室主幹)と変わっている。
クルマの環境対応バイオプラも一役 三菱自動車の取り組み
実用化された素材・技術がある一方で、コストや品質の課題が解決できず開発が 中断しているものもある。たとえば射出成形可能な耐熱性ポリ乳酸(PLA)樹 脂。ジュート繊維とポリアリレート繊維を組み合わせた同PLA樹脂は、耐熱性 および耐衝撃性で現行のポリプロピレン(PP)材料と同等以上の特性を実現し ており、2009年1月に開催されたダカール・ラリーに参加したサポートカー のドアトリム(4部品)に採用された。しかし、長期の耐加水分解性が「10年 程度なら問題はないが、15-20年となると難しい」(寺澤勇・開発本部材料 技術部エキスパート有機材料技術担当)としており、量産車の材料として採用さ れるまでにはいたっていない。
進化するマツダの高分子技術
世界的にCO2排出削減ニーズが高まるなか、自動車各社は低燃費化の取り組 みを加速させている。今年に入り電気自動車をはじめとする次世代環境対応車の 開発・実用化の勢いが増しているが、それでも喫緊の課題はガソリンおよび ディーゼルエンジン搭載車種の燃費向上だ。ハイブリッドシステムをはじめとす る低燃費技術の1つに車体軽量化があり、軽量化を目的とした金属部品の樹脂化 が急速に進んでいる。
プラスチックに ついては原料の脱石油化を目的にバイオプラスチックの開発が世界的に進められ ており、2008年の原油高騰時には「瞬間的にコストが逆転する可能性があっ た」(栃岡孝宏主幹研究員)こともあり、原料の安定調達の観点からも取り組み に拍車がかかっている。
ホンダ、自動車防錆処理を効率化、粘度調整型の高浸透ワックス開発
ホンダは、大幅な効率化を可能とする自動車の新防錆処理技術を開発した。加 温型チクソ剤を添加した粘度調整型高浸透ワックスの開発により実現したもの。 同ワックスは60度Cの加熱で流動性が高まる一方、冷却により網目状の構造体 を形成するため再加熱しても液ダレすることがないのが特徴。既存の生産ライン に導入が可能なほか、作業員の熟練度によらない確実な塗布作業を実現してい る。同社では、欧州向け08年モデルから適用している。
スズキが世界戦略車 既存技術で燃費性能追求
12年4月、中国・上海で開催されたモーターショーに1台の自動車が出品され た。スズキが世界戦略車として開発した新型アルトだ。排気量998ccの新型 車の特徴は、ハイブリッドシステムはもとより排気可変バルブといった特別な機 構を用いずにCO2排出量を1キロメートル当たり103グラム(MT車)とA セグメント車トップレベルの環境性能を実現したこと。低価格と高い環境性能か らすでに発売しているインドと欧州での売り上げは好調で、生産拠点のマネサー ル工場(インド)ではフル操業となっている。上海モーターショーの出品は満を 持しての世界最大の自動車市場・中国への投入だ。
ホンダ・インサイトに見る素材技術 インテークマニホールドなど
インサイトが搭載している1・3Lのガソリンエンジンは、インテークマニ ホールド(インマニ)にオール樹脂タイプを採用し軽量化を果たした。当初、 フィットが採用していたアルミ/樹脂複合タイプの採用を検討したが、ボディ形 状の違いから衝突安全基準や最適な吸気性能などを引き出すため新たに設計した もの。一方、オプション品ながら、フロアカーペットマットには植物由来の原料 を使用したポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維を採用するなど、環 境に優しい素材の採用も推進した。このほか、低VOC化を図った各種接着剤 や、アレルゲン物質も除去する高性能脱フィルターの採用なども図った。
ホンダ・インサイトに見る素材技術 ピラーセパレーター
構造部材にからんだ騒音・振動(NV)対策でも、インサイトは新開発の素材 を採用した。ピラーセパレーター(ピラーフィラー)と呼ぶオレフィン系発泡樹 脂で、サイドシル部やピラー空洞部分の根元にこの発泡樹脂を充填し、ピラー上 部への空気伝播音を遮断するほか、ピラー内の共鳴音(ロードノイズ中周波音) などを抑制する。インサイトでは、新たに高発泡・低温発泡タイプの超軽量ピ ラーセパレーターを採用し、従来品の3分の1という大幅な軽量化を達成した。 さらに、発泡温度が下がったことで品質が安定化し、塗装工程の温度の低下にも 対応できるようになった。
ホンダ・インサイトに見る素材技術 軽量・高静寂性の吸音材
ホンダは、06年から4輪車の室内の防音コンセプトを『遮音タイプ』から 『吸音タイプ』に一新した。新コンセプトにより、新機種の防音材の重量は初代 フィットに対し約4キログラムの軽量化に成功する一方で、静粛性は1ランク上 のレベルを達成したという。新型インサイトではさらに、HVとして吸音材の最 適配置を行った。その一例として、内装裏の吸音材として採用した住友スリーエ ム社の『シンサレート』については、さらなる軽量化や厚手化を図った。
ホンダ・インサイトに見る素材技術 高性能タイプの合わせガラス
ホンダは新型インサイトで、コンパクトクラスとして初めて遮音機能と赤外線 (IR)カット機能を併せ持つフロントガラスを採用した。コスト面の制約か ら、これまでは一部の高級車種などでしか使われていなかった。インサイト開発 チームは、この高機能合わせガラスがさまざまな音に対して遮音効果を発揮する ことに加え、IRカットにより夏場の実用燃費に貢献するなど、新型HVである インサイトの価値・品質を高める点を評価して採用を決断した。1つの素材・部 材が多数の機能を発揮することで、結果的にはコスト面でも優位と認められる典 型的なケースといえそうだ。
富士重工業「プラグイン ステラ」 EV商業化への試金石
12年6月に発表されたリチウムイオンバッテリー搭載の電気自動車(EV) 「プラグイン ステラ」。ランニングコストは軽ガソリン車に対して昼間の電力 で約5分の2、「深夜電力をうまく使用すると5分の1」(大崎篤プロジェクト マネージャー)にまで抑えられる。3ウェイ充電による実用性や走行中のCO2 排出がゼロという環境に対する優しさと相まって消費者に対するアピール度は高 い。しかし、車格が軽自動車ながら472万5000円と高級車並みの価格か ら、販売は官公庁や企業など法人が主となっている。

この項目:一般社団法人日本自動車工業会 のインターネット上の記事、および、 化学工業日報 のインターネット上の記事、自動車メーカーの最近のブログ記事、 を借用しております。

課題

修理用の材料が後進国では手に入らない
自動車に事故はつき物です。しかし、あまりに先進国の考えで設計製造された車両は修理の時に部材が手に入らず、修理不可能になります。典型は構造材に樹脂を使ったもので、 製造時の材料と同じものを入手することは不可能です。代替品でも手に入れば幸いですがそれもかなわなければ修理は不能です。失われた樹脂の代わりの部分的に鉄材で補修することになり、車両としての強度は望むまでもありません。 超高張力鋼板も現地で手に入れにくい部材です。この材料の使用は難しい問題です。
地産、地消の考え方
前述のように、国によっては、初期の設計に合致する部材が手に入らないことが生じます。 そのため、現地生産の場合はメーカーの考え方も少しづつ変化して、その地で入手可能な部材で車を設計しようというようになりました。本国から設計図をもらい、それの部材を検討し、手に入らないものは代替を考えるのです。その結果、初期の設計強度を満たさなければ、部材の厚みを変更するのです。その結果、重量増となり燃料消費率は劣化しますがやむを得ないとします。